大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)5007号 判決
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〔判決理由〕一、原告がつぎの特許権(本件特許権)を有していることは当事者間に争いがない。
特許番号 第六一三三九五号
発明の名称 アイスクリーム、シャーベットの即席製造方法
出願日 昭和三九年五月二〇日
出願公告 昭和四五年一一月一七日(昭四五―三六一四五)
登録日 昭和四六年七月二三日
特許請求の範囲 「本文に詳記せる如く、アイスクリーム、シャーベットを構成すべき混合原料を静粛かつ迅速に凍結せしめる第一工程と、常温において往復又は回転運動をなす攪拌突子と、一定位置に固定する障害用突子を互に近接設置して相対的に運動する機能又は粗砕、攪拌、混練する機能を有する簡易容器内に前記凍結物を移す第二工程を序列的に行い製造することを特徴とするアイスクリーム、シャーベットの即席製造方法。」
二、被告が別紙(イ)号図面およびその説明書に記載の家庭用アイスクリーム製造器「タイガーアイスクリーマー」((イ)号物件)を製造販売していることは当事者間に争いがない。
三、まず、(イ)号物件における「簡易容器1の内周壁から内方に向つて突出する鉛直リブ状の突子5」が本件特許請求の範囲にいわゆる「障害用突子」に該当するかどうかについて判断する。
1 (本件特許発明にいわゆる障害用突子)
本件特許公報所掲発明の詳細な説明中の、「本発明は……全部の原料の混合液を深さ一糎以下に浅く凍結皿に注入して冷却凍結せしめる第一工程と、この凍結物を……急速に往復又は回転する攪拌用突子およびこの突子と相対的に運動し又は静止せる障碍用突子との相対運動によつて激しく衝撃および攪拌を加える第二工程との序列的不可分の結合を特徴とするものである。」、「また第二工程においては……急速に往復または回転する単層又は複層の攪拌用突子と、一定位置に固定し又は異る方向か同方向に異速度にて往復又は回動する障害用突子とを設置して両者突子間の相対運動によつて凍結物を急激に引裂き方向に衝激攪拌せしめることを特徴とするものである。」、「その内部に往復型又は回転型の攪拌用突子の群を挿入する。これは……少くとも数本の突子が定間隔又は不定間隔にて一列乃至数列に直線又は円型に並列し、……また障碍用突子も同様の列をなせるものとし、両者の列は互に可及的に近接せしめるを可とする。」、「このような突子間において凍結物を衝撃攪拌する時は凍結物は相反する方向に強い衝撃を受けて破砕せられると共にこの砕片も突子および障碍子と共同して凍結物を引き裂き方向に混練して分子間に微細な間隙を生ぜしめて空気の混入を促進し多量の気泡を包孕せしめてオーバーランを有効適切に施工し得る。」および「……これを例えば口径十数糎、高さ二〇糎の円筒形容器に移し、その容器の底面に略到達する数本の攪拌用突子を固植した回転蓋を適合し、容器の下底からこの攪拌用突子の列と同心的に数本の障碍用突子を樹立して前記の回転蓋を急速に手動回転せしめると数分間で舌触り佳良なアイスクリームが得られ……」なる記載および特許請求の範囲中の「往復又は回転運動をなす攪拌突子と、一定位置に固定する障害用突子を互に近接設置して相対的に運動する機能又は粗砕、攪拌、混練する機能を有する簡易容器」なる記載を総合して考えると、本件特許請求の範囲にいわゆる「障害用突子」とは、第一工程によつて生成した凍結材料に直接接触して、攪拌用突子との相対運動によりこれを直接粗砕、攪拌、混練する機能を有する突子をいうものと解さざるを得ない。
原告の引用する詳細な説明中の、「固定型障碍用突子の一部のものは容器の周壁から内方に向つて突出するリブ状のものとなし得られ……」との記載は、凍結材料に直接接触して攪拌用突子との相対運動によりこれを粗砕、攪拌、混練する機能を有する固定型障害用突子のうちの一部のものをリブ状形態となし得ることを述べているに過ぎない。
原告は、また、「本件特許発明は、粗砕、攪拌、混練と無関係に凍結させる第一工程と、凍結と無関係に粗砕、攪拌、混練する第二工程を序列的に行うという従来なかつた着想に基づくもので、きわめて基本的、創始的な発明であるから、障害用突子についても限定的な解釈を行うべきではなく、本件特許公報の前記詳細な説明の項の記載は障害用突子について単なる実施例を説明したに過ぎず、これに限定されるものではない」旨主張する。
しかし、本件特許出願前に、アイスクリーム等の原料を混合して凍結せしめ、これを容器に入れて粗砕、攪拌、混練することにより即席的にアイスクリームの製造ができるとの技術思想が知られていたと認めるべき資料は本件に提出されていないから、右は本件特許発明の発明者の着想に係るものであるとしても、本件特許公報全体の記載によると、本件特許により保護される対象は、特許請求の範囲に記載された具体的技術思想、すなわち、同記載の機能を有する攪拌突子と障害用突子を同記載の如く構成した特定の容器に、あらかじめ凍結せしめた混合原料を移してなす製造方法と解するのほかなく、障害用突子の意義について、本件特許公報中に、前記認定を左右にすべき記載はない。
2 ((イ)号物件における鉛直リブ状の突子5)
(イ)号物件における鉛直リブ状の突子5は、凍結材料には全く接触せず、冷凍カップ3の周壁外方に突出する縦方向の外方突条6と係合して、直接的には切削兼攪拌翼4・4'の回動時の冷凍カップ3の従動を阻止し、その結果、間接的に冷凍カップ3内に凍結している凍結材料の移動を阻止する機能を有するものであることは原告も自認するところである。
そして、右突子5の隆起の高さも冷凍カップの回動を阻止する機能を奏するに足る程度に形成せられている。
3 (両者の突子の対比)
(イ) 号物件の鉛直リブ状突子5は本件特許発明にいわゆる障害用突子としての機能、すなわち第一工程によつて生成した凍結材料に対して直接接触して、攪拌用突子との相対運動によりこれを直接粗砕、攪拌、混練する機能を全く有せず、またそのような機能を発揮せしめるために設けられたものでないことは明らかであるから、本件特許請求の範囲にいわゆる「障害用突子」に該当しないものといわざるを得ない。
もつとも、(イ)号物件のリブ状突子5を除去して使用すれば、切削兼攪拌翼4・4'の回動に応じて冷凍カップ3およびこれに収容されている凍結材料が従動し、粗砕、攪拌、混練する機能を発揮し難くなることは、原告の主張するとおりであろう。したがつて、リブ状突子5が冷凍カップ3の従動を阻止する機能を有している結果、間接的に冷凍カップ3内において行われる凍結材料の粗砕、攪拌、混練に寄与しているということは認められるけれども、この作用効果は右突子5が凍結材料に直接接触してこれを粗砕、攪拌、混練する機能とは別個のものであつて、これと同視することはできないから、右突子5を本件特許請求の範囲にいわゆる障害用突子に該当するということはできない。
(イ)号物件において、凍結材料を直接粗砕、攪拌、混練する機能を有しているものは、回転型の鋸歯状およびフォーク状の切削兼攪拌翼4・4'のみであり、他に本件特許請求の範囲にいわゆる「一定位置に固定する障害用突子」に該当するものは見当らない。
原告は、(イ)号物件において、冷凍カップ3を使用しないで簡易容器1内に直接凍結材料を収容し、ハンドル7を回転すれば、現に良好なアイスクリームを作ることができ、その際、リブ状突子5は凍結材料の回動を阻止し、順次粗砕、攪拌、混練する機能を果しているから、本件特許発明にいう障害用突子に該当する旨主張する。しかし、(イ)号物件のリブ状突子5は、その突子をして冷凍カップ3の周壁外方に突出する縦方向の外方突条6に係合せしめ、切削兼攪拌翼4・4'の回動時に冷凍カップ3の従動を阻止するという目的のため設けられているものであることは(イ)号物件の構造上明らかであり、その隆起の程度も右設置の目的に徴して明らかな如く、冷凍カップの回動を阻止する機能を果たすに必要な程度の低いのであつて、直接凍結原料に接触し、攪拌突子と共働して原料の粗砕、攪拌、混練の効果を奏し得るような機能を有するものとは到底認めることができない。
四、原告は、また、(イ)号のリブ状突子5が本件特許発明の障害用突子に該当することを前提として、冷凍カップ3は単なる付加であつて、(イ)号物件は本件特許発明の実施に使用するものを含んでいる旨主張するが、右前提が認めることができないことは前叙のとおりであるから、右主張は前提を欠き容認することができない。
五、そうすると、本件特許発明の実施のための必須要件を欠く(イ)号物件を被告が製造、販売する行為は、なんら本件特許権を侵害するものではないから、侵害することを前提とする原告の本訴請求は失当として棄却する。
(大江健次郎 楠賢二 庵前重和)